パラパラスイカメモ

スイカ・フウのメモ帳

「ジャッキン・ザ・ボックス」

ジャック・イン・ザ・ボックスです。

サービス名:ジャック・イン・ザ・ボックス。

ジャックのビックリ箱です。

 

なぜそういうサービス名なのかは知りません。ジャックの名前がジャックなのは、商品名が先なのでしょうか。それともジャックがジャックだったからサービス名がジャック・イン・ザ・ボックスになったのでしょうか。

ジャックは名前の由来を知りません。

 

ジャックは今、ボックスの中に収納されています。

四角いボックスの中にギッチリ詰まっています。

これからジャックが入っているこの「ボックス」の「配達」が終わったら、ジャックはボックスから出ます。

 

それから……。

それからは、毎回仕事の依頼書に従って行動します。

今回は、本当に驚かすだけのようです。

えっ、それだけ?

 

それだけです。

ジャックは今回、驚かすためだけにボックスにギッチリ詰まっているわけです。

 

ジャックの体は機械で構成されています。

充電さえ切れなければ、窒息することも、血行不良になることもありません。

そこがジャックのいいところです。

 

振動の具合から、ボックスがどこかの建物に入ったことがわかりました。

 

サーモセンサーを起動します。家の中にいるのはひとり。ジャックが今日仕事をする相手なのでしょう。

 

ボックスの動きが止まりました。ジャックに組みこまれた平衡維持機能が推測します。どうやらボックスが床に置かれたようです。

 

あまり長くセンサーを作動し続けると、充電が切れます。ジャックはセンサーを切ります。さきほど遠ざかる足音が聞こえました。辺りは静かです。家の中にいるひとりの人間は、この部屋から出ていったのでしょう。ジャックはボックスから出ることにしました。

 

「動かないで」

 

背後から声をかけられました。静かな声です。静かですが、緊張をともなった声です。この声は危険です。ジャックのシステムが警戒をうながします。

 

「手をあげて。武器を捨てて」

 

ジャックがしゃべっていいのかどうかについて、声は何も触れません。ジャックが突然しゃべったら背後から撃たれるのかもしれません。ジャックは黙っていることにします。

 

「……」

「手をあげて」

 

こういうときには、ジャックはゆっくり動きます。

肘から先を持ちあげ、肘が鋭角になったら、肘をも持ちあげます。今度は鈍角で止めます。今のジャックは、いささか「W」の文字に似ています。

 

背後で、何かを起動する音が聞こえました。どうやら、金属探知機のようです。

ジャックの体は、飛行機にも乗れるように、金属で構成されてはいません。武器になるオプショナルアームもあるにはありますが、金属でできてはいません。しかしそれを今ここで言う度胸は、ジャックにはありません。

 

「武器は持っていないようね。何をしに来たの?」

 

質問されたら答えねばなりません。少なくとも、ジャックのシステムには、優先するべき処理としてプラグラミングされています。

 

質問されたら答えること。

なぜならそれが人間の習性だからです。

 

ジャックは人間相手に仕事をすることが多いので、当然、人間に合わせてチューニングされています。

質問されたら、答えること。質問を無視してもいいけれど、その場合、それなりに何かとぶつかり合うことを予期すること。

 

静かに話すべきです。音量の調整をあらかじめしてからジャックが話しはじめます。

「私は仕事でやってきました。これはすべて仕事です」

「ここはあたしの家よ。あんたにとって仕事だろうが何だろうが、ここで好き勝手されたかない」

 

「好き勝手はしません。ジャックはあなたを驚かすだけです」

「もう驚いた。仕事終わりね」

いつの間にかジャックの仕事は終わっていたようです。

「では、ジャックは帰ります」

「そうして」

 

ジャックがボックスに戻ろうとすると、声が呆れたように言いました。

「そのボックスを誰が送るのよ。誰がどこに」

「あなたが」

「嫌です。ボックス持って玄関から出てってください」

 

ジャックは従うことにしました。

じっと背後から見張られたまま、家の中を歩きます。

途中何度か迷いかけましたが、事前に受け取っていた家の間取り図を思い出すことで、無事に玄関にたどり着きました。

 

「では、さようなら」

背後を見ないまま、ジャックは別れの挨拶をします。

ゆっくりと玄関の扉のノブを握り、回します。

回りました。

扉が開き、ジャックはボックスとともに外に出ました。

 

背後で扉が閉まる音がしました。

少し歩きます。

曲がり角を曲がり、振り返ります。誰もいません。

 

ジャックは伸びをしました。腕を伸ばし、足を伸ばし、首を伸ばし、胴体を伸ばします。ジャックは機械ですが、なんとなく伸びをしてみたくなったのです。背後から見張られるというのは、緊張を強いられるものです。

 

ここからどうやって帰ればいいでしょうか。来たときと同じように、ボックスに入って帰るのが一番手っ取り早い気がします。ジャックは機械ですから。

 

まずは、送ってくれる誰かを探さねばなりません。

ボックスに入ったジャックの、配送の手続きを取ってくれる誰かを。

 

(おわり)

 

思ったより長くなってしまった…。

 

あ、お題ですね。

↓このお題で書いた話です。

 

suika-greenred.hatenablog.jp

 

今回は、4つめ「試しに広げてみた両手」ですね。

 

正確にその言い回しが入ってるわけじゃないんですが、もう「伸び」をしたところで、「試しに両手を広げてみた」ということでいいのではないかと…。そう判断したわけですが。なんというか、ううむ、難易度がものすごく高かったなあ…。

 

あと、今までずっとそうでしたが、5つめのお題「背伸び」も入っていますね。

「背伸び」ではなく「伸び」しか入れられてない気もしますが。「背伸び」には、そういう意味もあるようなので、まあいいかと。思うわけですが。

 

「驚かす」ことが目的だと言いつつ、家主がいないところでボックスから出ようとするジャックさんというのも意味が分からんのですが。驚かしたい人の目の前でボックスから出たほうが確実に驚いてもらえるのではとか…。今になってそんなことを思う。

 

実は、驚かすシチュエーションに何か指定があったのかもしれない、後ろから忍び寄って驚かせよ、とか。そういうことなのかもしれない。違うのかもしれない。

 

というわけで、今回のお題はこれにてクリア。

 

 

クリア済みのほかのお題↓

suika-greenred.hatenablog.jp

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