「きっと今夜も星は降らない」
真っ暗だ。
星がない。
かつては、あれだけ美しい星々が瞬いていたというのに。
Dは、視界を動かした。
音がない。
いつのころか、宇宙ステーション内のサウンドシステムが故障していた。
ここには音がない。
静かだ。
故障しているのは、ステーション内のサウンドシステムなのだろうか。
Dは、そんな疑問を感じることがあった。
故障しているのは、自分のシステムなのではないか。
Dは、惑星Cを見守るために開発された。
惑星Cにぶつかりそうなものを感知、発見して、軌道をそらす。それがDの仕事だった。
Dは独立型のロボットではなく、単なるプログラムだった。
だがDには、今までの監視システムとは少し違う部分があった。
人に近い視界を持っていたのだ。Dは、視界と、それに付随する感性を人に近づけたシステムだった。
それがどういう意味を持つのか、Dにはわからなかった。
だが、Dは、惑星Cの周囲を見て、美しいと思う感覚を持っていた。
惑星Cにいかなる隕石も降らせない。
惑星Cには、いかなる星も降らせない。
だが、Dは、惑星Cに降る星を美しいと思う感覚を持っていた。
今は真っ暗だ。
日夜、Dが発見し、宇宙ステーションの宇宙チリヒットガンで軌道をそらしてきたため、今では惑星Cの周囲には、どんなチリも隕石も漂っていない。
長い長い時間、Dは惑星Cを見守ってきた。
当初、一定の期間が過ぎたらDの任務は終わるはずだった。
だが、任期の途中でウィルスが発生した。
Dを開発した惑星Eにウィルスが発生したのだ。
ウィルスは惑星Eを席巻した。
惑星Eは滅びたわけではない。
だが、惑星Eに近い宇宙ステーションの管理で精いっぱいで、遠い遠い惑星Cへメンテナンス用の宇宙船を飛ばすのが、後回しになり続けていた。
長距離通信が入った。
「スペースステーションD、聞こえますか。スペースステーションD、聞こえますか。聞こえたら応答願います」
「はい。聞こえます」
惑星Eからの、久々の通信だった。
「視界が暗いですね。バッテリーの確認をお願いします。それで問題なければ、自己診断ツールを一度通してください」
Dは指示に従った。
「D、視界にエラーが出ています。惑星Cがそこから見えますか」
「いえ……見えません」
「いつから見えなくなっていましたか?」
「1か月前です」
「おかしいですね、こちらに送られてきたあなたのシステム情報によると、もっと前から見えなくなっていたはずです。時間の感覚も失っている可能性があります」
「そうですか。どうすればよいでしょうか」
「そのまま待ってください。来月、ようやくその宇宙ステーションのメンテナンスシップの打ち上げができます。来月打ち上げるメンテナンスシップが到着するまでのあいだ、なんとか乗り切ってください」
通信は終わった。
自分の視界と、時間の感覚がおかしいらしい。
Dは、それが何を意味するのだろうかと考えた。
何度も何度も同じことを考える。
時間の感覚が失われ、考えるよりどころをなくし、いつまでもふわふわと同じことを考える。何度も巻き戻し、同じところに思考が戻る。
これはどういうことなのか考える。
自分の視界にエラーが出ていた。
これはどういうことなのだろうか。
星は降っていたのだろうか。
惑星Cに降る星を、確認できていなかった。
惑星Cも見えていなかった。
これはどういうことなのだろうか。
もう、あのきれいな星を見ることはできないのだろうか。
あの美しい星を見ることは。
これはどういうことなのだろうか。
何を意味するのだろうか。
Dは、以前に見た、惑星Fに降る星を思い出そうとした。
美しかった星を、システム内の記憶領域から作業領域に呼びだそうとした。
思い出せない。
なにも見えない。
これはどういうことなのだろうか。
Dは仮説を思いついた。
「きっと今夜も星は降らないのだ」
見えないから星は降らないのだ。
Dはまた考える。
同じことをまた考える。
あの美しかった星を、もう一度見られないだろうかと。
☆
↓このとき引いた、3つのお題のうちのふたつめでございました。
「きっと今夜も星は降らない」。
よく知らんけど何か憧れる、宇宙ステーションについて書いてみました。
知らんので、たぶん間違ってる…。
民間の宇宙船打ち上げ成功のニュースがありましたよね、最近。
ウィルスがあろうがなかろうが、宇宙をほったらかしにはしないんだろうと思うんですが。そらそうですよね…。よく知らんので、遠いとこに手が回らなくなった設定で書いてしまった私でした。
これ、終わっとらん気がするけども、どうオチつければいいのやら…というわけで、このまま。視界と時間、あと最初のほうで触れた、聴覚も失ったんですけども、Dさんは。それがどう話に関わるのかという。そこら辺なのだが、あまり言うと長くなってしまうのですよね…。このメモはあくまで短くまとめたい…。というわけで、今日はこの辺で終わり。
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↓ほかのふたつのお題で書いた話。