パラパラスイカメモ

スイカ・フウのメモ帳

「Missing you」

ああ、モカ。
どうして出て行ってしまったんだ。

そんなに俺が嫌なのか。

ショックで何も喉を通らない。

 

だが空腹にはなる。食べたくなくとも腹が減る。最初は食欲がなかったので食べなくていいかと思っていたら、3日経って急にすさまじい飢餓感に襲われた。
スポーツドリンクの買い置きを取り出す。ペットボトルを開けて、そのまま飲む。2リットルのペットボトルだが、もういいだろう。俺のほかに誰がこれを飲むというのか。

 

飲んだことで気分が落ち着いた。しかし固形物を取らねばならない。飲み物だけではまたすぐに空腹感に襲われそうだ。買い出しに行かねば。そう思うも、足がふらついてその場にしゃがみ込んだ。

 

台所には何もない。いや、ある。腐った物ならたくさんある。あいつが出て行って、料理する人間が誰もいなくなった。俺は料理ができないわけではないが、食欲もないのに何かを作ろうと思えずにこの有様だ。

 

モカ。
涙が出てきた。
しゃがみ込んだ体勢も維持できずに、ずるずると台所に横になる。

 

もういっそのこと、水の中で暮らしたい。
ゆらゆら揺れていたい。
海藻のように。

 

宅配という手があった。出来たものでも食材でもいい。お金を払って届けてもらうことはできるだろう。
だが、思い直した。すぐそこにコンビニがある。食べ物なら何でもかまわないのなら、自分で買いに行ったほうが早い。

 

視界がぼんやりにじむ。まだ泣いていた。
なぜ泣いているのか、自分でもよくわからない。
栓が壊れたかのようだ。
どうすれば。
どうすればよかったのか。
わからない。

 

土日なのでひたすらモカのことを考えて食欲をなくしていたが、明日から仕事どうするんだ俺。食べないと座っていることも出来ないっぽいのに、どうすんだ俺。

 

情けない。
が、他人にそんなこと言われたくない。
ので、ちゃんとやっているふうに見せるしかない。

 

まず食事を取らないとふらふらしすぎる。今の俺は、どこからどう見てもふらついている。これをなんとか持ち直して、一見しっかりしているふうに見せないといけない。いや、真にしっかりできるならそれに越したことはないが、おそらく今はできない。見せかけるだけで精一杯。

 

ああモカ。
モカ。
君の匂いが恋しい。

 

帰ってきてくれたりしないだろうか。こんなふうに台所で寝ちゃっている俺を心配して帰ってきてくれないだろうか、モカ。

 

まあたぶん帰ってこない。
自分の期待がつらい。
何も期待するな、と自分に言い聞かせて、そんなの無理だ、と心の中で答える。

 

ゆらゆら、水の中で暮らす。
モカとは別の世界で……、
あいつと切り離された世界で……、
もう感情を持っていかれるような出来事が起きない世界で暮らしたい。
海藻みたいに揺らめいていたい。
青い、青い水の中で。

 

ピンポーン。

 

ビクッ。
うわビックリした、誰だこんな時間に。

 

反射的にそう考えて、キッチンテーブルに置きっぱなしにしていたスマホを見る。
夜の10時過ぎ。

 

……モカ?
いや、そんなはずはない。
そんなはずはない、が。
こんな時間に連絡もせず訪ねてくる人間に心当たりがない。

 

モカ。
モカなのか?

 

俺はなんとか立ち上がり、インターホンに向かった。オートロックがあるため、相手はマンションのエントランスにいる。そこに映っていたのは、見知らぬ男性だった。

 

誰だコイツ。
俺はどうしたものか判断がつかなかった。
また腹が減ってきた。
判断するには食べ物が必要なんだ。
買い出しに行かないと。
その前にこの男をなんとかしないと。

 

「あ、すみません夜分に。私はソーダと申します、ええとあのですね……」
男はしゃべり始めたが、すぐに口ごもった。

 

しまった、長いことインターホン越しにじろじろ見つめてしまった。

しゃべらないと。
「……あの、どういったご用件でしょう」
とりあえず声を出してみた。
他人の声みたいだ。

 

男はまず自分の職業の説明を始めた。
そうかそうか、何でもするのか。
んで何だってんだ。
なんでうちに来たん。
そこは説明されなかった。
口をはさんで問いただそうとしたとき、男の口からモカの名前が出た。

 

モカ?
モカを知っているのか?
おまえはモカの何なんだ。

 

ついでに言うと俺の名前も出た。
なんで俺の名前知ってるんだ。
こっちからすると見ず知らずのやつなのに、住所と名前をセットで知られてるってどういうことなんだ。

 

「あのう、ここでお話ししてもいいのでしょうか」
男がそう言った。

 

部屋に上げていいのだろうか。
何かの犯罪に見えなくもない。
かといって外で話すことにしていいのだろうか。

 

このご時世で、わざわざ知らんやつと面と向かって話をするというのは、ちょっとアレなのではなかろうか。アレって何なのか俺にもわからんが、こんなんで感染したらモカに顔向けできない。

 

どうすればいいの俺。
判断するにはグルコースが足りない。
食べておかなかったことを後悔した。
食べ物の備蓄をしていなかったことをひたすら後悔した。

 

しかしモカ。
この男はモカのことを知っている。
聞かなければ。
聞かなければならない。

 

腹を決めた。

外で話をしよう。

男にそう告げる。
ついでに買い物をしよう。


カギ、スマホ、上着。
最低限必要そうなものを手に取った。

サンダルをつっかける。

 

いまだに足がふらつく。
ふらつきながらも、俺は部屋を出た。

 

(つづく)

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お題で書いた話です。

↓お題が出た、あの日のスイカ。

suika-greenred.hatenablog.jp

 

本日はどれだろう…。

「海藻」「サンダル」のお題ですかね。

 

ちょっと漫画を描こうと思ってですね…。

もうすぐ6月だし、今年もう半分終わり…まだ終わっていないが、そろそろ半分なんだよなあと思って。私の中で、何かひとつ描きたい気分が盛り上がった。

 

この話を描くかどうかわからんが、ほかに候補がないし、これを描くんかなあ…なんだか行き当たりばったりな感じだけども…。

 

というわけで、なんとなく話っぽい形にしないといかんのかなあと思ってですね…。

いや、どうなんだろう、個人的には大きな話よりも小さなエピソード読めれば楽しい派だし、終わってなくてもいいかと思うんだが。

 

しかしまあ、3つエピソードを考えて、3つでひとつの話にしたほうが作りやすいのかと思い、そうしてみた。

エピソードになっとるんかねこれ。エピソードというよりシーンなのかね。

 

どうだろう、基本的に作業するのおっそいし、ほかの作業もまったくできてない都合もあり、6月中に終わるかどうかわからんという不安いっぱいな感じではある。

 

そもそもこのメモも、メモを毎日公開しなければいけない縛りがあったら、ほかの作業しつつ漫画描けるのでは、と思ったんだが、今はほかの作業がガンガン遅れているという…何だろう、やっぱりひとつのことしかできないのだろうか、私は…。よくわからんが。