「Lucky dog」
夜の中にぼうっと浮かんでいる。
それが遠くから見たそのコインランドリーの印象だった。
このご時世で、辺りの店が今の時間には皆閉まっていて暗いせいでそう感じたのかもしれない。そこだけがひときわ明るい。ソーダは目をしばたたかせながら、店の中に入った。ほかには客がいない。回っている洗濯機もなかった。
椅子に座った。
洗濯物を持ってくるのを忘れた。
ソーダは、何もせずに待った。
大きなカゴを抱えた女性が店に入ってきた。
女性は、ソーダを見て言った。
「ソーダさん、洗濯しないんですか?」
「洗濯物を持ってくるの忘れました」
「コインランドリーなのに?」
ソーダと呼ばれた男は、その言葉に苦笑した。
「仕事の話をするものだとばかり思い込んでました」
女性は手にしたカゴから洗濯機に洗濯物を移しながら、言う。
「私なんてコインランドリーで待ち合わせと聞いて、わざわざ洗濯物溜めたのに」
「すみませんヒヨコさん……、あ」
つい名前で呼んでしまった。昔の習慣だった。なれなれしかっただろうか。今日は仕事の話をしにきたというのに。
ソーダがそう思って言葉を切ると、ヒヨコさんと呼ばれた女性は柔らかく微笑みながら言った。
「ヒヨコでいいよ。ソーダくん」
そう言われたソーダは、ひとつうなずき、話を続けた。
「このご時世にどこかで食事しながらというのもよくないかと思いまして」
「まあそうかも。ここもあまり長居するとまずいかな。じゃあ、手短に話す」
ヒヨコは洗濯物の残りを洗濯機に放り込み、洗濯機のスイッチを入れた。
そして空になったカゴをわきに抱えると、小さなバッグからスマホを取り出して操作した。
「これがモカ」と、ソーダにその画面を見せながら言う。
画面には犬が映っている。赤みがかった薄茶色の体毛をしていた。
「ペット可のところ探してたのはモカのためじゃなかったんだけど、結果的によかったのかな。はじめはほかの子を飼うつもりだったんだけどね。あいつがモカを逃がしたりしなければ」
“あいつ”というのは、ヒヨコの元恋人のことであろう。ついこのあいだ、ソーダはヒヨコが元恋人と同棲していたマンションから引っ越す手伝いをしていた。
「モカちゃんは見つかったんですよね」
「うん。でもさ、モカがちょっとした隙を狙ってたのは前からだったんだよ。ゴミ出しとか、ちょっと部屋から出ようとすると、一緒にスルッと出て行こうとするの。で、毎回私がちょっとお待ちなさいって引き留めるんだけどもさ。あいつ、気づいてなかったのかな。ってのとさ」
ヒヨコはそこで息を継いだ。マスクがあるせいか、少し話しづらそうだ。
「モカが迷子になってたあいだは1日かそこらで、まあ私が見つけたからよかったけどもさ。あいつ、私に丸投げしてきたんだよ。仕事があるからって」
「はい」
「まあ、仕事ならしゃーない……んだけどもさ」
「はい」
「私は運良くフルリモートなのね、仕事」
「はい」
「だから、運のいいほうが引き取ればいいと思って」
「はい」
「という話を、したいんだけどもさ。あいつに」
「はい」
「絶対に、私に悪意があってそう言ってると思うと思うのね」
「それはまず聞いてみないと」
「うん、まあそう。だから、ソーダくん聞いてみて欲しい。こんなこと頼んで悪いけど、仕事として依頼したい」
「はい」
「LINEで言おうにも、モカを見つけたって報告もあいつ読んでなかったみたいでさ。いまだに未読なのね。読んでるのかどうかよくわからないからさ、よくわからないというかたぶん読んでないんだろうけどさ、そこんとこを確認してほしい」
「はい」
「でまあモカを引き取りたいと言って断られたら弁護士探したり……いろいろこっちもやらなきゃいかんことあるからさ。とりあえず、今はあいつがどう思っているのかだけ確認して欲しい」
「わかりました」
「料金はどれくらいになるかな」
ソーダは料金表をスマホに表示し、ヒヨコに見せた。
「オプションによって変動しますけど」
「それが基本料金てことね。わかった」
ひとまず話は済んだ。
立ち去ろうとするソーダにヒヨコが言った。
「あいつは私がモカを奪おうとしてると思うのかな」
「どうでしょうか。僕には何とも」
「うん。まあね。じゃあ、よろしくお願いします」
「はい」
別れを告げて、ソーダはコインランドリーをあとにした。
(おわり)
(3/3)
☆
これで終わりなのか?
と思わなくもない。ううん…。
終わらせようがなかった…。そもそも何の事件なのかよくわからんので、解決のしようがなかった…。ううむ。
あ、お題で書いた話です。
お題を出したときは溌剌としていたスイカ↓
今回は「コイン」のお題で書いたもの、ですかね…。どれがどのお題だか混乱してますけど。
結局、「いずれ友愛」と「煙」のお題は使えなかった。使えないというと何だか語弊がありそう、そうではなく、話を作れなかった。
「友愛」のほうは、なんとなくそのうちいいお友達に…的な、何だろう、そういうふうに読めなくもないが、「煙」は何も思いつけず、どうすることもできなかった。
いや、まあ、「そのうちいいお友達になれないふたり」というつもりで書いてたので、どちらにしてもお題クリアできなかったんですけども。てへ。
ううむ。お題スロットによって作りやすさの難易度が変わる…個人的に作りにくいスロ回してしまうと、地獄を見ることになるんだなと…思ったりした。文句ばっかり言ってるなあ私…まあそうなんだが。スロットに文句つけたいわけじゃないし、お題出してもらえるのはありがたいはずなのにどうしてこうなる…。
書いてて思ったのは…ソーダとヒヨコさん、わざわざ対面で話す必要なくね…というのと。わざわざコインランドリーで会わなくてもよくね?
あと、「犬」と呼んでいいのかなあというのと。犬種を書いたほうがいいのかな、そのほうが自然なのかなと思ったが、モカちゃんについて何も決めていなかったのと、そもそも人間のほうも何も描写していなかったということがあってですね…。
この話、ソーダに関しても、誰に関してもまったく描写してないのよねん…。外見とか年齢、服装、そういうものをいっさい書いていなくてですね…。なんでかというと、文字数が増えるからなんだけども。なるべく短くしたかった…。そのうち漫画を描くならそこでどうせ考えるだろうし、今考えなくてもいいかと…思った部分も正直あってですね…。
という、そういう感じなので、モカちゃんに限らず生き物全般を描写していない、生き物だけでなく建物や場所も描写していない話になっているので、なんかもういいかという気がしてきた。モカちゃんだけ気にしても仕方あるまい。
あと、モカちゃんの画像をスマホに表示している、と書いたが…。これは静止画像なのか、動画なのか…。後者だとしたら監視システムがあるということなんだろうけども、これ調べないとわからん…。しかしモカちゃんが動いているところをソーダに見せないと保護している感は出ないよなあ…。あとで調べる。
で、「あいつ」呼び。ヒヨコさんもナグサさんも、どちらもお互いを「あいつ」と呼んでいるのですね。なので平等…平等なのか何なのか知らんが、お互いに名前を呼ばない人たち、ということでございました。名前を呼ぶのはモカちゃんに対してのみ。
事務所。ソーダは事務所を持っているのだろうか、ないのだろうか。
事務所があるならそこで話をすればいいと思うが、たぶんない。ので、コインランドリー。
この人たちはマスクをしているのか問題。
昨日、ナグサさんがストローを吸う音で返事する話を書いたときにも思って、しかし書き忘れてたんだが、マスクどうしたんですかね。
「マスクを外した」と書いていないので、最初からマスクしとらんかったのか感がありますね。
書き忘れた。(どーん)
どうなんだろう。マスクをしている日常、というのがいつまで続くのかわからない、ワクチンがある程度行き渡ったらマスクしない日常に戻るのかなという気もするが…。マスクは描いておいたほうがいいのかなあ。絵にするとき。まあそうなのかなあ。
タイトルの「lucky dog」は「果報者、ついている人」という意味らしい。モカちゃんではなく、ヒヨコさんのことですね。自分で「運がいいほう」と言っていたので。タイトルだから冠詞は要らない…んだよな?よくわかっていないわたくし、ドキドキ。
あと何だろう…まだ何かありそうではあるが、いったんこの話、1週間くらい?寝かしたい…。ちょっと冷静になろうか…という感じ。
なので明日はまた映画見るんだけども…。
マーロン・ブランド祭りしないと。あと、ほかの映画も見たい。映画でなくてもいいんだけども、なんらかのフィクションに触れて、私も描きたい!という気持ちになるのが目的…のはずだった。そのはずだった…。というと何だか不吉な感じだなあ。
まあ、明日は映画。
で、そのあと絵柄を決めようかな…。主線太くすればいい気がしてきたんだよな…。まあそれは、追々書くつもり。