パラパラスイカメモ

スイカ・フウのメモ帳

「そして血脈という名の指」

寒くありませんか?
もう少し薪を足しましょうか。

 

いえいえ、かまいませんよ。
困ったときはお互い様です。
山の中に暮らしているもので、道に迷った方がここにたどり着くことも、こう言っちゃ何ですが、よくあることなんですよ。

 

この城ですか?
私ひとりですよ。
使用人? いません。

 

どうしました。
やはり寒い?
そうではない。そうではないのですね。

 

ああ、私の指が気になりますか?
いえいえ、それはそうでしょう。わかります。
他人の指のようですよね。
両手のすべての指が、第一関節で他人の指に置き換えられたかのような。
そんなふうにも見えますね。

 

この指はね、吸血鬼の指なのですよ。

曽祖父がね、吸血鬼だったのです。
ひいじいさんですね。父方の曽祖父でした。父の父方、つまり祖父の父ですね。

 

この城を建てたのも曽祖父でね。
今では私ひとりですが、その昔は曽祖父も祖父母も、叔父叔母らも、従兄弟たちも、私の父母も、一族がみな身を寄せ合ってここで暮らしていたのですよ。

 

え? それだけですよ。
あとに残ったのは、私ひとり。
いろいろありましてね。

 

ええ、私は吸血鬼じゃありません。
年も取るし、血も飲みません。

 

曽祖父が吸血鬼になったのは、祖父が成人してからでね。
祖父は人間…、いや、どうだろう、キッチリと検査をしたわけではなかったらしいですから。そもそも「人間かどうか」の検査自体が存在しませんのでね。だから想像でしかありませんが、祖父は人間だったはずです。うちの一族は、曽祖父以外の誰も吸血鬼ではなかったのですね。

 

ええ、そうですね。
吸血鬼かどうかの判断基準もないはずです。病院に行っても、「吸血鬼検査」なんて存在しないでしょう。
おそらく、吸血鬼の伝承にあるような要素が当てはまっていたのだと思います。
年を取らなくなる、血を飲む。そのようなところですね。

 

そうですね、そういう言い方をしてしまうと、けっこう曖昧です。
傷の直りが早いとでも言いましょうかね。

 

指ですか。
昔、事故に遭いましてね。

大学生のころでした。
曽祖父と一緒にいたときに、その事故は起きました。
交通事故でした。

 

曽祖父もひどい傷を負ったのですがね。
吸血鬼なので、病院に行けないのですよ。
感染者を増やしてしまう可能性があったのですね。

 

どうやって人間が吸血鬼になるのか、理屈はわからないのですがね。血液感染であろうというのは一族のあいだの共通認識でした。「感染」と言っていいのですかね。「病気」という分類も合っているのかどうか。

 

たとえば救急車を呼んで病院に行って、「吸血鬼だから血に気をつけて感染しないように治療してくれ」と言っても伝わらなかったでしょうね。

仮に伝わったとしても、ですよ。

われわれ一族も実験や検証をしたわけではないので、どうすれば人間が吸血鬼になるのか厳密な条件はわからないわけです。どれだけ気をつけていても人を感染させてしまう可能性がある。外部の病院に行く、外部から医師を呼ぶという選択はできなかった。

 

一族の人間の中に、外科医がおりました。
叔母が外科医でした。

 

うちの一族は医者が多い家系でした。
曽祖父が病院にかかれないせいもあったのですかね。外部に助けを求められない分、うちにいる人間が助けようとしたのかどうか。そんな殊勝な人たちだったかどうか思い出せませんが、とにかく外科医がいた。

 

……。

外科医が手術したのは、私でした。
一緒にいた私も指をケガしていたのですね。あまり詳しく説明したくありませんが、外科医は曽祖父ではなく、私に手術をしました。

 

まあ、そうですね。
私は吸血鬼ではなかったのですから、私だけでも病院に連れていけばよかった。
……のですが、なにしろ当時は曽祖父のための病院施設が、城の中に併設されていたものでしてね。事故現場から救急車を呼ぶよりも、城に戻って治療を始めたほうが早かったのです。

 

ええ、曽祖父はその後もピンピンしていましたよ。
亡くなったのは、その事故が原因ではありませんでしたから。
指も元通りに戻っていました。

 

ええ。
この指、ですね。
血液を介して吸血鬼になるというのなら、私も吸血鬼になっているはずです。

どうなのでしょうか。
私は自分のことを人間だと思っています。しかし、先ほど申し上げたように、検査のしようがないですからね。

 

血を吸いたいとは思いません。
それは吸血鬼として私が落ちこぼれだというだけのことなのか、それこそが私が人間だという証なのか、どちらなのかはわかりません。

 

どちらにしても、私は仲間を増やそうとは思っていません。
自分の意志に反して仲間を増やそうとしてしまう衝動もありません。
だから安心して休んでください。
明日には天気もよくなるでしょう。

 

やはり、もう少し薪を足しましょうかね。
夜は冷えますからね……。

 

(おわり)

 

 

「おわり」と書いてはいるが、本当に終わっとるのか何なのかわからん。

これはお題で書いた話です。

困惑していたかつてのスイカ↓

suika-greenred.hatenablog.jp

 

「そして血脈という名の指」「薄笑い」のお題でございました。

薄笑い要素を入れられていない気もしますが、語り手が全体的に薄笑いをしているのですね。「愛想がいい」のか「薄笑い」なのかはその場の雰囲気によるでしょうけども。

 

このお題が出たときにも困惑したけども、その後も困惑が続くという…。なんだかもう、わけがわからなくなり、なにもかもが嫌になってくるという…そんな負のスパイラルを招くお題でした。お、恐ろしい!

 

まず意味がわからんかったのよね~。

「そして誰もいなくなった」と「欲望という名の電車」が混じってるのかな、元ネタは映画のタイトルなのかな、と思わなくもなかった。どちらもフレンチノワールではない気もするが。

 

このタイトルは、執筆当時にニューオーリンズを走っていた路面電車の名前である。ニューオーリンズには「欲望(Desire)」、「極楽(Elysian Fields)」といった名前の通りがあり、「欲望という名の電車」は、「欲望通り(Desire Street)」を走っていた電車である。この電車には「Desire」という表示がされていた。つまり「欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)」とは、東京の路面電車でいうなら「都電荒川線」の表記にあたるが、作品の内容を暗示する効果的なタイトルになっている。

 

欲望という名の電車 - Wikipedia

 

「欲望」という名前の電車があったのですね。そのまんまだけども。なので映画はこのタイトルなのだが…。お題は「そして血脈という名の指」なのに、「血脈」という名の指はない…と、またしても困惑する羽目に陥った。何だよもう、どういうことなん。

 

結局よくわからんままだった…なんかもう腹が立つので、この話のタイトルにそのまま使ってやろうコンチクショウ。人は、意味がわかりそうでわからない言葉をお題にすると、何も考えられなくなる。そういう教訓を得ました。

 

あ、映画のほうの「欲望という名の電車」は、私はタイトルしか知らなかった。アマプラで見られるようなので、あとで見てみましょうかね。

 

でまあ、よくわからんがまあいいかと思い…。こう…脈々と…先祖っぽい人から指を受け継いだ話にしてみようかと…。「いろいろな世代が出てくる」→「一世代が長く生きている」→「吸血鬼」という連想がなんとなく働いたので、吸血鬼の話。

逆に一世代がすごく短くてもいい気もするが、今回は長い感じで。しかし私は吸血鬼のこともよく知らんので設定があやふや。

 

発祥
カタレプシー(蝋屈症)を死亡と信じた人々によって埋葬され棺の中で蘇生した人や、死蝋など埋葬された時の条件によって腐りにくかった死体への錯誤、あるいは黒死病の蔓延による噂の流布により生まれたとされる。

 

吸血鬼 - Wikipedia

 

伝承自体はたくさんあるようですね。で、吸血鬼を扱った創作も多く…私の設定も創作から来ているのですかね、元ネタが何なのか、すでによくわからんのだけども。

 

本来、「再生する」というよりも「死んでいなかった」という錯誤だったようですね。あと何だろう、病気の蔓延で広がった噂とは何だろうか。「日頃の行ないが悪いと吸血鬼になる」みたいな嘘情報のことですかね…。「黒死病」のWikiを見ても、吸血鬼の噂の流布に関しては載っていなかったので、よくわからないまま。

 

今の時代は黒死病とは違う感染症が流行っているわけですが…。今回の架空話の語り手が人間なのか吸血鬼なのかもはっきりしておりませぬが。まあそうだけども、はっきり書いてはいないだけで、どうやら書いた私は吸血鬼だと思っているっぽかった。

ううん、まあ、あれだ、早くこの禍が収束してほしいなという願いも込めて、仲間を増やす気のない語り手にしてみました。ということでひとつ。

 

 

ほかのお題で書いた話↓

 

「お互いが嘘をつく(瞳の描写)」「最後の朝」

suika-greenred.hatenablog.jp

 

「箱庭」

suika-greenred.hatenablog.jp